ヒューズ・高感。リレキ

ヒューズは適度に取り換えましょう。

あたまからっぽより、知恵あったほうがキラキラできるよね

 私の好きな落語の演目に三枚起請ってのがあります。

 

 以下、あらすじなので、知ってる人はスルーで。

 

 古典落語の廓話なのですが、ざっくりあらすじを説明しますと、起請文という誓約書があって遊女が客と「引退したら結婚する」という起請文を交わすのが流行っていたときがありました。本気のもあったのでしょうが、普通に考えたら今でいう色恋営業でした。

 3人の男が夜遊びの話をしていました。すると、それぞれが同じ遊女から起請文を貰っているということに気付きます。騙されたことに気付き怒った3人は、遊女に一泡吹かせようと作戦を練って遊郭にいきます。

 

 遊女は3人に問い詰められますが、「騙されるほうが悪い」と飄々と答えます。

 男の一人が「起請文に背くと八咫烏が3羽死ぬんだぞ」と非難するのですが、遊女は「3羽どころか、世界中のカラスを殺したいんだよ」と答えます。

 

 男は不思議がって尋ねます。

 

 「そんなにカラスを殺して、なにをしたいんだ?」

 

 「朝寝坊」

 

 落ちの意味は、都々逸「三千世界のカラスを殺し ぬしと朝寝がしてみたい」のもじりです。(話を単純にするために内容を変えています)

 

 

 以上、あらすじ終わり。

 

 男たちが、徐々に騙されたマヌケであると気づいていく流れも好きですが、終盤で男たちに追い詰められた遊女が開き直って啖呵を切りだして、最後にユーモアでしめるあの流れが一番好きです。

 

 この噺は、状況的にはドロドロしてるのに、ぜんぜんそんな感じがしません。暴力で懲らしめてやろうっていう流れにならず、知恵を使っていっぱい食わせようとする男たちと、それより一枚上手のウィットで切り返す遊女のやり取りが暗ーい流れを払拭しているのでしょう。

 

 ちなみに出てくる喜瀬川花魁は他の演目でも、トンチで客を追い払っていて、なかなかの手練れです。

 

 どうしようもない状況で、それでも知恵を使って切り抜けて、しかも笑いにしてしまうってのは素晴らしいです。けれど、言ってしまえばファンタジーだから出来ることです。

 実際には頭がクルクル回る日ばっかりじゃないし、明るいほうを見れないときもあります。でも、心の底のほうに、こういう意識を常に持っていたいです。

 

 頭からっぽでいいからキラキラしたいって歌がありますが、知恵があってもキラキラ出来るというか、むしろ知恵があるとキラキラ出来ない状況でもキラキラを取り戻すことが出来ると思うんですよ。

 

 例えば、三枚起請の登場人物がみんな頭からっぽだったら、「お前殺して俺も死ぬ」って男たちがやってきて、喜瀬川花魁もうまい返しが出来ず、その日の夕刻の瓦版に「吉原にて無理心中。男女4名死亡」みたいな悲劇的な見出しが載ってたと思うんですよ。

 

 頭からっぽだと、物事を一つの方向しか見れません。いろんな方向から見すぎて焦点がぶれるのも危ないんですが、焦点がぶれてないのも危ないです。知恵とは、余裕です。そして、人生に冗長性がないってのは怖いことです。

 

 金がもうかれば何でもいい。パートナーがいれば何でもいい。

 

 人には、ある程度の行動原理があってもいいけれど、「もし、それがない状態はどうなるんだろう」って想像力がないと、実際に無くなってしまったときに「もう終わりだ!」ってなって、ツマラナイことしか考えられなくなっちゃうと思います。

 

 もちろん、いくら想像を巡らせても勝てない価値観はあります。たとえ私に「かわいい」がよく分からなくても、世の中の金を持っている人たちは「かわいい」に消費します。だから、納得がいかなくても「かわいい」を利用した生存戦略を取るっていうのは間違っていないでしょう。

 

 でも、向いてない人がいるし、やりたくねぇ人もいるし、かわいくい続けられない人もいる。じゃあ、そういう人たちが「かわいい」の世界で笑って生きていくには、やっぱり知恵と知識、広い視野なんじゃないかな思います。

 

 三千世界のカラスを殺し ぬしと朝寝がしてみたい

 

 あなたが交わした起請文を全部破って、あなたと一緒になりたいって内容です。よくもまあこんなフワッフワした口説き文句を言えるなぁーと思いますが、私はちょっと違う解釈をしてます。

 

 三千世界は全世界よりも広大で、いろんな世界の集まっている状態を指します。これは個々人の内面にある世界が、連なりあって出来る社会のようです。

 

 私たちは生まれた瞬間から、誰かの思惑によって一方的に起請文を書かされています。それを一つ一つ破り去っていけたら、どんなに痛快でしょうか。

 

 押し付けられた起請文を破り捨て、静かになった世界でゆっくりと眠れたら、どんなに素敵でしょうか。

 

 起請文に雁字搦めになっているのは私です。

 起請文を破れるのもまた私だけです。

 

 もちろん、一人の力では破れないような強い起請文もあるでしょう。破ってはいけない起請文もあるでしょう。

 

 破ろうとしても破れなかったり、破ってはいけないものを破ってしまったり、大切に保管してたのに破れてしまったり。

 

 人生はファンタジーじゃないので、三枚起請のように綺麗なサゲはつかないです。

 

 それでも知恵とユーモアをもって生きていきたいと思います。